
■ 結論
『ヒポクラテスの憂鬱』(中山七里・朗読:石田嘉代)は、「生きている人間はうそをつく、死体はうそをつかん」という光崎の一言に集約される一冊でした。前作からの人物関係を引き継いでいるぶん、CADを動かしながらでも迷子にならずに聴き通せます。
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■ 作業中に聴きやすい?
今回も1.6倍速で聴取しました。前作『ヒポクラテスの誓い』で真琴・光崎・キャシー・古手川の関係をすでに把握しているため、今回は人物設定を一から覚え直す負担がなく、事件と物語そのものに集中して聴けました。事件ごとに区切りのある連作形式でありながら、光崎の解剖を軸に緩くつながっていくので、話の迷子になる感覚はありませんでした。
前作にはなかった真琴と古手川の恋愛模様も登場しますが、お互いに鈍い者同士のあっさりした描写にとどまっており、CADを動かす手を止めるほどのボリュームではありません。
一点、声の聞き分けについては前作と印象が変わりました。今回は古手川・渡瀬・光崎という男性同士の場面が増え、石田嘉代さんのナレーションでは声質の違いははっきりしているものの、重さの違いまでは出しきれていない印象があります。地の文では違和感なく聴けており、雰囲気自体は合っていただけに、この点だけが少し惜しいところでした。解剖や遺体の描写、特に匂いに関する表現は前作同様にあるため、苦手な方や食事中の作業には引き続き不向きです。
■ Audibleで聴く|朗読・再生時間
Audibleでは本作の配信を確認できます。無料体験の条件は変わることがあるため、最新の内容は登録画面でご確認ください。
再生時間は8時間40分、配信日は2023年3月17日です。
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■ 『ヒポクラテスの憂鬱』のあらすじ・作品情報
法医学ミステリー・医療ミステリー・警察ミステリーの性格を併せ持つ、ヒポクラテスシリーズ第2作です。埼玉県警のホームページに「コレクター」と名乗る人物からの書き込みが始まり、事故死・病死として処理されようとしていた遺体に疑問が投げかけられます。警察は書き込みを無視できず、浦和医大法医学教室へ解剖を依頼し、光崎藤次郎と栂野真琴が改めて死因を調べていく形で物語が進みます。
一つの死を一区切りとして扱う連作形式でありながら、「コレクターは何者で、何のために解剖させようとしているのか」という謎が全体を貫きます。結末やコレクターの正体には触れませんが、事故死・病死とされていた死に疑問を投げかけ続ける存在がいなければ、その遺体は解剖されなかったかもしれない、という点が本作を通じたテーマです。
■ 『ヒポクラテスの憂鬱』の主な登場人物
- 栂野真琴(つがの まこと):浦和医大の研修医。前作に続き、光崎とともにコレクターが指摘した遺体の死因を調べていく。
- 光崎藤次郎(みつざき とうじろう):浦和医大法医学教室教授。法医学界の権威で、傲岸不遜だが解剖技術は超一流。
- キャシー・ペンドルトン:浦和医大法医学教室准教授。アメリカ生まれで、光崎の研究に惹かれて日本へ来た。
- 古手川和也(こてがわ かずや):埼玉県警捜査一課の刑事。熱血で猪突猛進な性格。コレクターの書き込みをきっかけに事件を警察側から追う。
- 渡瀬(わたせ):埼玉県警捜査一課、古手川の上司。仕事に厳しく口も悪いが、コレクターの意図を追う警察側の主要人物。
■ 「死体はうそをつかん」という一言に、真琴が少しずつ毒されていく面白さ
本作の中で強く印象に残ったのは、光崎が口にする「生きている人間はうそをつく、死体はうそをつかん」という一言でした。生者の証言よりも遺体そのものを信じる、という光崎の姿勢を端的に表す台詞です。
聴いていて面白かったのは、この考え方に真琴が少しずつ影響されていく様子です。法医学の経験を重ねるうちに、真琴が光崎のやり方そのものを自分の中に取り込み始めている感じがして、いい意味で「毒されていく」ような成長ぶりが伝わってきました。
前作が「真琴が法医学の意味を知る話」だったとすれば、本作は「真琴が光崎のものの見方を自分のものにしていく話」でもあります。シリーズを続けて聴くほど、この変化がどこまで進むのか気になる作りになっています。
■ 傲岸不遜と紹介される光崎に、根回しと気遣いという用意周到な一面がある
Audibleの紹介文でも光崎は「傲岸不遜」と表現されており、実際に口も態度も悪い場面が多く登場します。しかし本作を聴いていると、それだけでは片づけられない一面が見えてきます。
警察への根回しや、解剖にかかるお金の準備など、光崎が事前に周到な手を打っている場面がいくつもあり、単に頑固で偏屈なだけの人物ではないことが伝わってきました。真琴への気遣いも随所に感じられ、傲岸不遜という言葉だけでは捉えきれない人物像になっています。
この「用意周到さ」は、コレクターという不確定要素に振り回されながらも法医学教室が事件を解決し続けられる理由の一つのようにも聴こえました。表面的なラベルの奥にある人物の厚みが、シリーズを通して少しずつ見えてくる楽しみだと感じます。
■ 『ヒポクラテス』シリーズを読む順番
本作はヒポクラテスシリーズの第2作です。前作『ヒポクラテスの誓い』で作られた法医学教室の人物関係を引き継いでいるため、シリーズ順に聴くのが自然です。
- 『ヒポクラテスの誓い』
- 『ヒポクラテスの憂鬱』(本作)
- 『ヒポクラテスの試練』
- 『ヒポクラテスの悔恨』
- 『ヒポクラテスの悲嘆』
- 『ヒポクラテスの困惑』
前作からナレーションや人物の聞き分けがどう変わったか、シリーズまとめ記事で巻ごとの違いを比較できます。
■ 『ヒポクラテスの憂鬱』はこんな人におすすめ
前作を聴いていて人物関係を把握している方、事件ごとに区切られた連作形式をサクッと聴き進めたい方には向いています。光崎の癖のあるセリフや、真琴の成長ぶりを楽しみたい方にも合っています。
一方で、解剖や遺体の描写、特に匂いに関する表現が苦手な方には引き続き不向きです。男性人物同士の会話が多いため、声の重みの違いまで求める方には物足りなさが残るかもしれません。
■ 『ヒポクラテスの憂鬱』はAudibleと本、どちらが合う?
光崎の名言をテンポよく聴きながらサクッと進めたいならAudible、警察側の人物関係をじっくり整理しながら読みたいなら本が向いています。
石田嘉代さんの朗読は、真琴とキャシーの掛け合いや光崎の飄々とした語り口とはよく合っており、地の文も含めて雰囲気を壊しません。1.6倍速でも展開を追いやすく、連作形式のテンポの良さを声の抑揚ごと楽しめます。
一方で、古手川・渡瀬・光崎という男性人物が続く場面で、誰の発言かを文字で確認しながら読みたい方は、Kindle・書籍版の方が向いています。
作業をしながら続けて聴きたい方は、Audibleで『ヒポクラテスの憂鬱』を聴くことができます。
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