
結論:今野敏『真贋』(朗読:水越健)は、萩尾警部補シリーズ2作目として安定感があり、作業中に流しやすい警察小説でした。盗犯係の話なので殺人事件のような強い緊張感はなく、水越健さんの落ち着いた朗読も変わらず耳になじみます。曜変天目や質屋の世界が絡む題材の引きもあり、1.3倍速で仕事と並走しながら最後まで聴けた一冊です。
■ はじめに
今野敏『真贋』をAudibleで聴きました。朗読は前作『確証』と同じく水越健さんです。萩尾警部補シリーズの2作目で、今回も警視庁捜査三課盗犯係の萩尾警部補と、部下の武田秋穂が中心になります。
前作で耳が慣れているぶん、こちらもすっと入れました。盗犯を扱う三課の話なので、殺人事件のような重さがなく、落ち着いて聴ける。仕事をしながらでも気持ちが揺れすぎず、耳読との相性がいいシリーズだと改めて感じました。
■ 今日の耳読シーン
在宅で施工図の仕事をしながら耳読。変換や資料整理のような軽い工程から、修正・割付検討のような中程度の工程まで、いつもの流れの中で聴きました。再生速度は1.3倍。水越健さんの落ち着いたトーンと、登場人物の人数が前作と近く展開も把握しやすいので、1.3倍でもストレスなく追えました。
事件の温度が高すぎず、朗読も穏やかなので、かなり自然に仕事と並走できます。無音よりは集中しやすく、音楽よりは内容がある。作業の進み具合にちょうど合う感覚がありました。
■ 本の概要
『真贋』は、警視庁捜査三課盗犯係の萩尾たちが、美術品や質屋の世界が絡む事件を追う今野敏の警察小説です。常習犯・ダケ松の仕業だと早い段階で目星がつき、身柄確保されるところから始まります。「犯人は誰か」を引っ張るタイプではなく、そこからどう真相に近づいていくかを追う構成です。
題材となる曜変天目は、中国で焼かれた天目茶碗で現存する3椀がすべて国宝というもの。この素材の引きがあるだけで、聴き始めから少し前のめりになれます。江戸時代に質屋を「七つ屋」と呼んでいた由来(質→しち→七)など、耳読ならではの雑学の入り方も楽しめました。
■ 萩尾警部補シリーズの読む順番
今野敏の萩尾警部補シリーズは、現在Audibleで以下の順で配信されています。
- 『確証』
- 『真贋』(本作)
- 『黙示』
- 『職分』
各作品の事件は独立しているので途中から入っても内容は追えますが、萩尾警部補と武田秋穂のコンビ関係や、一課・三課・二課それぞれの温度感は1作目から順番に積み重ねていくほうが伝わります。1作目『確証』から聴くのが自然です。
■ 主な登場人物
前作『確証』から引き続き登場するキャラクターが中心で、耳だけでも関係を追いやすいです。
- 萩尾秀一:捜査三課盗犯係の警部補。堅実で矜持のある仕事ぶりは前作から変わらず。
- 武田秋穂:萩尾の部下。一本調子になりすぎないアクセントを今回も担っています。
- トネリ:二課知能犯係の刑事。少し硬いタイプだが能力があり、人に媚びない。今作から登場し、三課とは違う色を作品に加えています。
■ ナレーションの印象
朗読の水越健さんは、今回も声のトーンが落ち着いていてちょうどよかったです。BGMのように耳になじみ、仕事中でも邪魔にならない。それでいて場面や人物の違いはきちんと伝わります。トネリのやや硬い人物像も、やりすぎない声の使い分けでちゃんと伝わってきました。
シリーズを通して同じナレーターという安心感があります。前作で耳が慣れているぶん入りやすく、1.3倍速でも聴き取りやすかったのは水越健さんの発音の明瞭さがあってこそだと思います。
■ 作業との相性
※記号は「作業中の聴きやすさ」の目安です(作品の面白さ評価ではありません)。
作業相性(体感):◎(1.3倍速でも追いやすく、仕事との並走がしやすい)
- 変換・資料整理など:◎ 耳になじみやすく、単調な時間の流れがよくなる
- 修正・割付検討など:◎ 話を追いやすく、気持ちが乱れにくい
- 詳細・納まり検討など:○ 推理の整理が入る場面では耳が少し前に出ることもある
このシリーズは、三課が相手にするのが「プロ」であることもあって、事件の運び方に職人的なおもしろさがあります。その温度感が、派手すぎないのに中身はある、という聴きやすさにつながっていました。
人情的な話と犯罪ミステリーのバランスがよく、感情を揺らしすぎないのも作業向きです。殺人事件のように心を持っていかれにくいので、仕事の主導権をこちらに残したまま聴ける作品でした。
■ こんな人には合わない
- どんでん返しや伏線回収を楽しみたい人
- 犯人を予想しながら聴き進めたい人
- トリックや謎解きの切れ味を求める人
- 殺人事件の緊張感や強いサスペンスを求める人
- 女性ナレーターや高めの声が好みの人
この作品は早い段階で犯人の目星がつく構成なので、「誰が犯人か」を引っ張る展開は期待できません。謎解きの爽快感や強い感情の揺れより、萩尾たちの仕事ぶりを気持ちよく追うことに面白さがある作品です。また、前作『確証』と展開が似ている部分もあるので、シリーズとして新鮮味を求めると少し物足りなく感じる可能性もあります。
■ 心に残ったポイント
- 殺人事件がなく、落ち着いて聴けるシリーズの安定感がある
- 水越健さんの朗読が今回も耳になじみやすく、1.3倍速でも追いやすい
- 曜変天目や質屋の知識が入り、題材に引きがある
- 犯人探しより、行動を振り返って盲点を突く推理の運び方が面白い
- 三課と二課それぞれの職人気質の違いも楽しめる
- 人情味と犯罪ミステリーのバランスがよく、作業とも並走しやすい
いちばん印象に残ったのは謎解きの見せ方でした。順番にミステリーが解き明かされるというより、それぞれの行動を振り返りながら盲点を突いていく流れで、派手さではなく積み上げていく推理の運び方がよかったです。
また、江戸時代に質屋を七つ屋と呼んでいた由来など、こういう作品ならではの雑学の入り方も耳読の楽しさのひとつでした。三課と二課、それぞれの流儀で動く人間たちを追う感じも見ていて楽しく、シリーズとして次も聴きたくなる作品でした。
■ こんな人におすすめ
- 作業中に流せる落ち着いた警察小説を探している人
- 殺人事件の重さが少ないシリーズを聴きたい人
- 今野敏の盗犯ものを1作目から順番に聴いている人
- 美術品や質屋など少し知識が入る題材が好きな人
- 派手すぎないが安定して楽しめるシリーズものが好きな人
■ 総評
今野敏『真贋』は、シリーズとしての安定感があり、今回も落ち着いて聴けるAudibleでした。水越健さんの朗読は変わらず耳なじみがよく、1.3倍速でも十分追えます。盗犯を扱う三課の話なので気持ちが大きく揺れすぎず、仕事と並走しやすい。
前作『確証』と展開が似ている部分はありますが、そのぶん安心して入れるのも確かです。曜変天目という題材の引きと、三課・二課それぞれの職人気質の違いが今作の色を作っています。シリーズ3作目『黙示』へも自然につながります。