
結論:『永い言い訳』は、人物の内側を追うのに置いていかれにくく、耳読でも“共感が邪魔にならない”作品でした。
事件で引っぱるより、言葉の温度と人の輪郭で刺してくるタイプ。淡々と手を動かす時間に、じわっと効いてきました。
■ はじめに
西川美和『永い言い訳』をAudibleで耳読しました。朗読は池松壮亮さん・黒木華さん。
概要欄に“映画化”の話題があり、気になっていた西川美和作品でもあったので再生しました。
再生して少し聴いたところで、「これ、あの映画の話だ」と気づきました。
映画だと思って入り口に立ったら、原作小説だった。しかも、いつか観ようと思っていた“あの作品”。
先に小説として出会えたのは、少し得をした気分でした。 ![]()
■ 今日の耳読シーン
在宅で図面仕事をしながら耳読。作品は、変換・資料整理などの軽い工程から、チェック修正などの中くらいの工程、割付・詳細検討など判断が要る工程まで、仕事の流れの中で“横断して”聴くことになります。
人物の心理をじっくり追う作品ですが、朗読のテンポが良く、耳だけでも置いていかれにくい印象でした。気づくと主人公の“言い訳”に耳が吸い寄せられます。
■ 本の概要
作家として名はあるが、人としてはどこか不器用な主人公が、ある出来事をきっかけに人生の手綱を取り落としていく物語です。
この作品が刺さるのは、「自分が思っている自分」と「周囲から見えている自分」がズレていく瞬間。
仕事での立ち位置、家庭での立ち位置、そして“人としてどう見られているか”――そのズレが、じわじわと生活を歪ませていきます。
主人公はダメ男なのに、なぜか部分的に共感してしまう。その描写の巧さが、この作品の怖さでもありました。
■ ナレーションの印象
朗読は池松壮亮さん・黒木華さんの男女二人体制。私は普段、男女ナレーターの切り替えは敬遠しがちですが、これは良かったです。
役者さんの朗読なので、最初は「映画の人物像がそのまま声になっているのかな」と感じるほど自然。
切り替えが過剰に“演出”にならず、人物の感情の輪郭を丁寧に置いていく――西川美和の文章と相性が良い朗読でした。
■ 作業との相性
作業相性(体感):○(聴けるが、心理描写で手が止まりやすい瞬間がある)
- 変換・資料整理など:◎ 流れで聴ける
- チェック修正など:○ 共感が来る場面は一時停止が安心
- 割付・詳細検討など:△ 人物の内側に引っぱられると手が止まりやすい
区切りは章よりも、感情が動いたところで一時停止して調整するのが現実的でした。
■ 心に残ったポイント
- 西川美和の人物描写がとにかく丁寧。ダメ男なのに、部分的に共感してしまう“ズルさ”がある
- 主人公は本来、妻と一緒に成長していくはずだった――そう思わせる余白が切ない
- 人にはそれぞれ成長の曲線がある。結婚して生活を重ねる中で、遅れてでも整っていくはずだった人間の気配に共感した
- ダメ男であろうが、身近な理解者がいれば、人生はそこまで壊れなかったかもしれないと思ってしまう
- それでも、人生は「自分が正しいと思う自己像」と「周囲から突きつけられる評価」のギャップに揺れる
- 気づくと主人公の“言い訳”を、こちらも一緒に聴いてしまう
■ こんな人におすすめ
- 西川美和の丁寧な人物描写が好きな人
- ダメ男の物語でも、どこか共感しながら読める作品が好きな人
- 人物心理を追う小説を、耳でじっくり味わいたい人
- 自分と他人の評価のズレに、心当たりがある人
※注意:映画を「原作を知らずに観たい」人は、先に映画を観てから聴く方が安心です。
■ 総評
主人公は、たしかにダメ男。なのに、部分的に共感できてしまう。
その“共感してしまう感じ”こそが、西川美和の人物描写の凄さだと思いました。
そして、結婚して生活を重ねる中で、人は少しずつ形を変えていく。成長の速度も、曲線も、人それぞれ。
本当は妻と一緒に、遅れてでも整っていくはずだった人間の気配があるから、余計に切ない。
朗読も当たりで、映画の入口に立ちながら、小説として人物の内側に潜っていける。
人生は、自分が思う自分と周囲が見ている自分のギャップに揺れる――その事実が、静かに残る作品でした。