
結論:中山七里『殺戮の狂詩曲』(朗読:池添朋文)は、シリーズの中で最も弁護士としての御子柴が前に出た最終作です。どんでん返しではなく弁護の論理で着地する構成で、社会問題に真正面から向き合いながら作業との相性も良好です。1作目から順番に聴いてきた読者ほど、終盤の締めくくりが深く響きます。
■ はじめに
中山七里著『殺戮の狂詩曲(さつりくのラプソディ)』は、弁護士・御子柴礼司シリーズの第6作であり、最終作です。ジャンルはリーガルサスペンス。朗読は引き続き池添朋文さんが担当し、2024年2月にAudibleで配信開始されました。再生時間は9時間55分です。前作までと異なり、御子柴の身近な人物ではなく、社会的な大量殺傷事件の被告人を弁護する構成で、シリーズの中で最も弁護士らしい御子柴が見られる一作です。
■ 今日の耳読シーン
施工図の作業中に聴きました。変換・資料整理から修正・割付検討がメインです。社会派テーマが続く構成ですが、御子柴を軸に話が進むため作業の手が止まることはありませんでした。1.3倍速で聴いても崩れませんでした。
■ 本の概要
高級老人ホームで介護士・忍野忠泰が入所者9人・職員3人を殺傷する大量殺傷事件が発生します。御子柴は周囲の反対を押し切り、報酬も見込めない国選弁護人として忍野の弁護を引き受けます。「生産性のない老人に生きている価値はない」と言い切る被告人との聴取場面では、御子柴が自身の過去をふまえながら弁護士として向き合う場面があり、シリーズを通じて最も弁護士らしいと感じました。どんでん返しではなく、弁護の論理で着地する構成です。御子柴らしい切り口で被告人が守られる結末で、終盤には医療少年院をめぐるシリーズの積み重ねが静かに絡んでくる場面があり、6作を通じて読んできた読者には感嘆できる締めくくりになっています。
■ 読む順番/シリーズ情報
御子柴礼司シリーズの読む順番は以下の通りです。
- 贖罪の奏鳴曲(ソナタ)
- 追憶の夜想曲(ノクターン)
- 恩讐の鎮魂曲(レクイエム)
- 悪徳の輪舞曲(ロンド)
- 復讐の協奏曲(コンチェルト)
- 殺戮の狂詩曲(ラプソディ)← 本作・最終作
本作は前作までの積み重ねが終盤に活きる構成です。特に1作目から続く御子柴の少年院時代の背景を知っているかどうかで、終盤の響き方が変わります。順番通りに聴くことを強く推奨します。
■ 主な登場人物
- 御子柴礼司:主人公。今作では国選弁護人として報酬も見込めない弁護を引き受ける。被告人との対話で、シリーズを通じて最も弁護士らしい一面を見せる。
- 忍野忠泰:被告人・介護士。「生産性のない老人に価値はない」という独自の論理を持ち、自らの行為を天誅と称する。
■ ナレーションの印象
池添朋文さんはシリーズを通じて御子柴を担当しています。6作目ともなると声色の使い分けで「あの時のあの人だ」と気づく場面がありますが、耳読の邪魔にはなりません。それどころか、シリーズを追ってきた読者にはその気づきが楽しめます。1.3倍速でも安定して聴き取れます。今作は巻末解説がなく、本編が終わったところで自然に聴き終えられました。解説がある作品と比べて、余韻が途切れない終わり方でした。
■ 作業との相性
※記号は「作業中の聴きやすさ」の目安です(作品の面白さ評価ではありません)。
- 変換・資料整理など:◎ 社会派テーマが続く構成で急激な展開が少なく、BGMに近い感覚で聴ける。御子柴を軸に話が進むため離脱しにくい。
- 修正・割付検討など:◎ 被告人との聴取場面が中心で、スピード感が急変しにくい。少し気を取られても話についていける。
- 詳細・納まり検討など:○ 御子柴の弁護論理が展開される場面では内容を追いたくなり、集中を要する作業と重なると手が止まることがある。
■ こんな人には合わない
- 老人の生産性や尊厳をめぐる話に辟易している人。被告人の論理がその方向で続くため、しんどく感じる場合がある。
- 実際の事件を連想させる描写が苦手な人。冒頭の大量殺傷の描写は人を選ぶ。
- シリーズを飛ばして本作から入る人。終盤の締めくくりは1作目からの積み上げがあってこそ伝わる。
■ 心に残ったポイント
- 御子柴が最も弁護士らしかった
前作・前前作は身近な人物の弁護が続き、探偵のような動き方が目立っていました。今作では被告人との聴取を通じて、御子柴が自身の過去をふまえながら弁護士として正面から向き合う場面があり、シリーズを通じて最も弁護士らしいと感じました。 - 「士業を信用するな」という場面
作中で弁護士である御子柴を揶揄する言葉として出てきます。自身も士業として、この言葉には少し心が揺らぎました。 - 医療少年院のつながり
リーガルサスペンスとして完結するかと思ったところで、終盤に医療少年院をめぐるシリーズの流れが静かに絡んできます。6作を通じて読んできた読者には、ここに来てこのつながりかと感嘆できる締めくくりでした。
■ こんな人におすすめ
- 御子柴礼司シリーズを1作目から順番に追ってきた人。終盤の締めくくりがシリーズの積み重ねとして響く。
- 社会問題をテーマにしたリーガルサスペンスが好きな人。老人の尊厳・生産性という重いテーマを法廷で扱っている。
- 弁護士としての御子柴を正面から見たい人。今作はシリーズの中で最も弁護士らしい御子柴が描かれている。
■ 総評
中山七里『殺戮の狂詩曲』は、御子柴礼司シリーズの最終作にふさわしい一作です。社会性の強い事件を題材にしながら、御子柴が弁護士として正面から被告人に向き合う場面が多く、シリーズを通じて積み上げてきた御子柴像が本作で結実しています。巻末解説がないため余韻が途切れず、聴き終えた後の静けさも含めてシリーズの締めくくりとして機能していました。