
結論:中山七里『復讐の協奏曲』(朗読:池添朋文)は、ミステリーとしての意外性より御子柴礼司というキャラクターの魅力を楽しむ一作です。中盤で結末が推測できる構成ですが、御子柴のやり込め方と爽快な法廷劇で最後まで聴けます。作業との相性は良く、シリーズを通じて聴いてきた読者ほど楽しめます。
■ はじめに
中山七里著『復讐の協奏曲(ふくしゅうのコンチェルト)』は、弁護士・御子柴礼司シリーズの第5作です。朗読は引き続き池添朋文さんが担当し、2023年12月にAudibleで配信開始されました。前作まで御子柴の家族が弁護対象でしたが、本作では長年そばにいた事務員・日下部洋子が被告人となります。シリーズの積み重ねが活きる一作です。
■ 今日の耳読シーン
施工図の作業中に聴きました。変換・資料整理から修正・割付検討がメインです。中盤で結末がある程度見えてくる構成のため、手を動かしながら落ち着いて聴けました。1.3倍速でも聴き取れ、物語に混乱することはありませんでした。
■ 本の概要
御子柴の事務所に、〈この国のジャスティス〉と名乗るブログ主に煽動された800人以上の懲戒請求書が届きます。その対応に追われるなか、事務員の日下部洋子が交際相手の男性を殺害した容疑で逮捕されます。御子柴は洋子の弁護を引き受け、彼女の過去を掘り下げていきます。本作はミステリーの意外性より、御子柴の周囲の人間と過去がどう繋がるかを追う構成です。前作の母親、今作の事務員と、近しい人間の弁護が続きますが、シリーズファンとして身内が困難な状況を法が解決していく様子を楽しめます。ネット上の「正義」による懲戒請求という時事的なテーマが背景にあり、現代社会への視点も持っています。
■ 読む順番/シリーズ情報
御子柴礼司シリーズの読む順番は以下の通りです。
- 贖罪の奏鳴曲(ソナタ)
- 追憶の夜想曲(ノクターン)
- 恩讐の鎮魂曲(レクイエム)
- 悪徳の輪舞曲(ロンド)
- 復讐の協奏曲(コンチェルト)← 本作
- 殺戮の狂詩曲(ラプソディ)
本作は洋子と御子柴の過去の接点が核心です。1作目から洋子を知っている読者ほど、その事実が重く響きます。順番通りに聴くことを強くおすすめします。
■ 主な登場人物
- 御子柴礼司:主人公。長年そばにいた洋子の弁護を引き受け、彼女の過去と自分の過去が交差していく。
- 日下部洋子:御子柴法律事務所の事務員。本作の被告人。1作目から御子柴のそばで働き続けた理由が本作で明かされる。
■ ナレーションの印象
池添朋文さんはシリーズを通じて御子柴を担当しています。最初のころは間が気になりましたが、シリーズを重ねるごとに気にならなくなりました。女性の声も落ち着いていて違和感がなく、法廷・刑事物のジャンルには男性ナレーターが合うという実感は本作でも変わりませんでした。1.3倍速でも聴き取れ、物語に混乱しません。巻末解説は3作続けて聴いてきたこともあり、BGMとして流せるようになりました。ただし初めて聴く方には、本編との境目がわかりにくく違和感があるかもしれません。
■ 作業との相性
※記号は「作業中の聴きやすさ」の目安です(作品の面白さ評価ではありません)。
- 変換・資料整理など:◎ 中盤で結末がある程度見えてくる構成のため、緊張感で手が止まることがない。BGMに近い感覚で聴ける。
- 修正・割付検討など:◎ 御子柴を軸に話が収束するため、少し気を取られても追いやすい。展開が急変しにくく、作業との干渉は少ない。
- 詳細・納まり検討など:○ 法廷での御子柴のやり込め方に引き込まれる場面があり、集中を要する作業と重なると手が止まることがある。
■ こんな人には合わない
- 本格ミステリーのどんでん返しを期待する人。本作は中盤で結末が推測できる構成で、意外性は弱い。
- 本作からシリーズに入る人。洋子と御子柴の過去の接点は、1作目からの積み上げがあってこそ伝わる。
- 巻末解説を余韻として楽しみたい人。本編と同じ調子で解説が続くため、読後感が途切れる場合がある。
■ 心に残ったポイント
- 「老人のずる賢さを知らない」
御子柴が「本当のワルを知らない」と言う場面に対し、今作では「老人のずる賢さを知らない」と返される。御子柴が一枚上手を取られる瞬間で、シリーズを通じて読んできた読者には効く場面だった。 - 御子柴の弁護士としての倫理観
「君が殺人を起こしていようがいまいが、必ずそこから出してやる」というセリフが印象に残った。善悪より依頼人の利益を優先するという御子柴の一貫した姿勢が、シリーズを重ねるほどに清々しく感じられる。 - 谷崎・宝来・山崎の布陣
東京弁護士会会長の谷崎が事務代行に宝来を選び、ヤクザの山崎に情報収集を依頼するという展開が爽快だった。現実社会では成立しにくい組み合わせが、御子柴の世界観として違和感なく機能している。
■ こんな人におすすめ
- 御子柴礼司シリーズを順番に追っている人。洋子の秘密がシリーズの積み重ねとして響く。
- 法廷での御子柴のやり込め方を楽しみたい人。本作でも会話劇の爽快感は健在。
- 作業しながらリーガルサスペンスを聴きたい人。構成が落ち着いており、作業と干渉しにくい。
■ 総評
中山七里『復讐の協奏曲』は、ミステリーとしての驚きより御子柴礼司というキャラクターを楽しむ一作です。前作の母親、今作の日下部洋子と、御子柴に近い人物の事件が続くため、シリーズ読者向けの色が強い。池添朋文さんの安定したナレーションも変わらず、作業との相性も良い一作です。