
結論:野宮有『殺し屋の営業術』(朗読:外崎友亮)は、序盤〜中盤は仕事しながら十分追えるが、終盤の謎解きは耳も頭も持っていかれて作業にならない。仕事中に向くAudibleかと聞かれたら、終盤だけは別と答える。読後感は良かった。
■ はじめに
タイトルを見たとき、「ビジネス小説かな」と少し身構えました。でも聴いてみると、ビジネスに即したエンタメ小説という感じで、普通に楽しめました。営業テクニックが武器になるという設定が面白く、裏社会を舞台にしながら暴力より頭脳で切り抜けていく展開が続きます。第71回江戸川乱歩賞受賞作で、朗読は外崎友亮。シリーズ第1作ですが、本作単体で完結しています。
■ 今日の耳読シーン
CADで施工図を描きながら聴きました。序盤〜中盤は作業しながらでも問題なく追えていましたが、終盤の謎解きに入ったあたりで耳も頭も引っ張られて、手が止まりました。最後の1時間ほどは仕事中に聴くのは無理でした。軽い作業に限る、というより手を止めてもいいくらいでした。
■ 本の概要
営業成績トップの凄腕営業マン・鳥井一樹は、ある夜のアポイント先で刺殺体を発見し、殺し屋に口封じとして消されそうになる。恐怖に屈せず、鳥井は殺し屋相手に「商談」を始める。「あなたは幸運です。私を雇いませんか?」——契約成立。2週間で2億円のノルマを背負い、裏社会での命がけの営業が始まる。
カクテルパーティ効果、プロスペクト理論、ネガティブクロージングなど、実際の営業テクニックが次々と登場して裏社会の交渉に使われます。著者には短期間ながら営業職の経験があるそうで、交渉場面のリアリティが高い。後半にかけてコンゲームとしての密度が上がり、最後まで飽きませんでした。
■ 読む順番/シリーズ情報
シリーズ第1作で、本作単体で完結しています。前知識なしで聴き始められます。2026年に第2作『殺し屋の出世術』が刊行予定で、続きが気になる終わり方ではありますが、読後感はきちんとまとまっていました。
■ 主な登場人物
- 鳥井一樹:主人公の凄腕営業マン。成績はトップだが内面に虚無感を抱えている。裏社会に巻き込まれてからは、営業スキルだけを武器に生き延びていく。
- 風間・耳津(ヨーム):殺人請負会社・極東コンサルティングの代表と相棒。鳥井の雇い主となる殺し屋コンビ。
- 鴎木美紅:広域指定暴力団の殺人請負部門トップセールス。後半の強敵として登場する。
- 百舌(モズ):大男で力自慢かと思いきや、実は一流のハッカーだった。この意外性は耳越しにもしっかり届いた。
登場人物の名前は鳥にまつわるものが多い。序盤は誰が誰かやや把握しにくいですが、中盤以降は整理されてきます。
■ ナレーションの印象
外崎友亮の朗読はテンポよく、会話劇や営業トークのやり取りは耳で追いやすかったです。男性ナレーターですが、女性キャラクターの声もさっぱりしていてとても良かった。演じ分けに違和感がなく、最後まで聴きやすかったです。終盤が聴きにくく感じたのは、朗読というより内容の密度そのものが上がるためで、そこは作品の性質だと思います。速度調整は標準のまま聴きました。
■ 作業との相性
※記号は「作業中の聴きやすさ」の目安です(作品の面白さ評価ではありません)。
作業相性(体感):序盤○ → 終盤△〜✕
- 変換・資料整理など:○ 序盤〜中盤は問題なく追える。終盤は△
- 修正・割付検討など:△ 中盤までは何とかなるが、終盤は厳しい
- 詳細・納まり検討など:✕ 頭が二手に割れる
序盤〜中盤は会話劇中心で追いやすく、手を動かしながらでも楽しめました。終盤は車に関連する技術的なトリックが絡んでくるため、CADで考えながら聴いているとどうしても聞き流すことになります。そこだけは手を止めることをすすめます。
■ こんな人には合わない
- 仕事中に最初から最後まで完全に追いたい人(終盤は別途集中が必要)
- 暴力・裏社会の描写が苦手な人
- 静かな人情系・警察小説を期待している人
- 車の構造やメカニックな話が耳だけでは追いにくい人
■ 心に残ったポイント
- 実際の営業テクニックが裏社会の交渉に使われるシュールさ。カクテルパーティ効果、プロスペクト理論、沈没船ジョークなど、次々と出てきて飽きない。
- 百舌(モズ)が大男の力自慢かと思ったらハッカーだった意外性。耳越しでもしっかり驚けた。
- 著者に営業経験があるだけあって、交渉場面のリアリティが高い。「この人は営業を知っている」と感じた。
- 「ビジネス小説」と聞くと少し違和感があったが、「ビジネスに即したエンタメ小説」と捉えると素直に楽しめた。構えずに聴けた。
営業テクニックがそのまま武器になるという設定は、聴いているうちに自然と受け入れられました。裏社会の話なのに、妙にリアルな説得力がある。著者の経歴を調べると当初は兼業作家だったようで、「作家としてすぐに売れていたらこの作品は書けなかった」という言葉が納得できました。
■ こんな人におすすめ
- 営業や交渉術に興味があって、エンタメとして楽しみたい人
- コンゲーム・頭脳戦系のミステリーが好きな人
- 手を動かしながら聴ける、テンポのいい会話劇を探している人
- 終盤だけ手を止めて聴ける余裕がある人
■ 総評
仕事中に向くAudibleを探しているなら、序盤〜中盤は合格点です。ただ終盤だけは手を止める前提で聴いてほしい。それだけ内容が詰まっているということでもあります。読後感が良く、続きが出るなら迷わず聴きます。ビジネス書を読む感覚で構えて入るより、エンタメとして気楽に聴き始めるほうが、この作品には合っていると思いました。